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人も嬉しい、事業も嬉しい、社会も嬉しいというものは、長い目で見ると一致すべき。 | 山口 惣大 × 深井 龍之介

法人COTEN CREWへ参加してくださった企業の方々へのインタビュー。第六弾の対談相手は、主に産婦人科領域の医療用医薬品やホルモン製剤を製造販売され、広く女性の健康への貢献に取り組み、100年続く製薬会社、あすか製薬の山口惣大さんです。

COTEN RADIOの放送を聞いて連絡をくださった山口さん。規模が大きく歴史も長い組織でありながら、COTEN CREWへの参加を決めてくださったあすか製薬さんの社会への姿勢はCOTENと通じるものがありました。

山口さんお写真

山口 惣大(ヤマグチ ソウタ)さんプロフィール:
2008年3月首都大学東京大学院理工学研究科修了、20年3月一橋大学大学院経営管理研究科修了。08年4月日立製作所入社。16年2月あすか製薬入社、17年6月取締役常務執行役員、19年6月常務取締役、21年6月あすか製薬代表取締役社長兼あすか製薬ホールディングス代表取締役専務取締役。神奈川県出身、1983年生まれ。

法人COTEN CREWになった経緯

下西(COTEN広報):
本日はよろしくお願いいたします。あすか製薬さんとの出会いは、山口さんからメールをいただいたことがきっかけでしたよね。

山口 惣大さん(以下、山口):
そうですね。苦手だった歴史の学び直しに COTEN RADIO をよく聞いていて、番組を何らかの形でサポートできたらと思い、ご連絡させていただきました。その後、深井さんから法人 COTEN CREW についてお話を伺い、参加を決めました。

あすか製薬は特に産婦人科の医療用医薬品をメインで取り扱っています。薬を提供して病気を治すことは直接的・即時的な社会貢献になるけれど、もっと長い目で見たときに、私たちの存在意義というのは何なのかをずっと考え続けてきました。

この5年くらいで、社会に対する姿勢として ESG や SDGs といった言葉も出てきましたが、私としてはどれくらいの時間軸で社会や物事を見るかの問題だと思っています。目の前の利益を優先することで環境を破壊したり、人権を無視したりしていては、長期的には自分たちが衰退してしまいますよね。長い目で見て社会にとって良い選択をすることで、社会も良くなるし、会社も従業員も良くなるし、お客様も良くなる。私たちは社会に対してどんな貢献ができるのか、社内で議論しているところです。長期的に社会を良くするものをサポートすることも社会貢献の一つだと考えていて、法人 COTEN CREW への参加を決めました。

深井 龍之介(以下、深井):
本当にありがとうございます。あすか製薬さんのような規模の会社がこのような初期の段階で参加してくださるとは予想していなかったです。稟議を通すのも相当大変だったのではないかと想像しています。製薬と歴史を結びつけるのは難しくなかったですか。

試行錯誤するには人生は短すぎる

山口:
今回ご連絡したのは「性の歴史」が放送されたタイミングでした。SRHR(Sexual and Reproductive Health and Rights の略、「性と生殖に関する健康と権利」)という、自分の性や出産するしないなどに対して、人々が自由に選択でき、尊重されるという考え方が今、広まりつつあります。「性の歴史」シリーズでは、どういった経緯で今こういった現状になっているのか、過去どうだったのかを非常にわかりやすく説明していただいたと感じました。

女性は家にいて子どもを産んで家事をすべきだ、みたいな考え方が、社会の発展と共に変わってきていることもまさしく歴史ですよね。女性の社会進出が増えてきた一方で、生理痛と労働の問題も増えている。こういった時代と共に変化する女性特有の悩みを解決するために、製薬会社としてできることは何か、を考えています。ただ未来を考えるだけではなく、そのために足元の現状とそこに至った経緯も理解すべきです。「性の歴史」では、まさに私たちが学ぶべきことがタイムリーに聞けたと思いました。過去・現在・未来を見て、女性のために何ができるのか、という視点で、私たちの事業と歴史も繋がっていると思います。こういった番組を無償で聞けるありがたさを感じるとともに、これが継続できる体制は社会にあった方が良いなと思いました。

深井:
ありがとうございます。あすか製薬さんは会社の歴史も非常に長いですよね。規模が大きく歴史も長い組織は、良くも悪くもお金の使い方が仕組み化されて、法人 COTEN CREW のような新しくてフワッとしたものに対してはお金を使えない構造になると思っているんです。それは無駄なお金を使わないという強い意志でもあり、良いことでもあります。ただ、時代の変化や新しい潮流といった、資本主義で拾いきれない大事なところに対する投資がしづらくなる、という側面もあると思います。
あすか製薬さんがそういうところに対して投資ができる体制を今取れているのは、様々な経緯で歴史を積み重ねてこられた結果なんだろうな、と想像できます。

山口:
弊社は1920年の創業で、元々食品会社だったところから、食品の製造過程において大量に廃棄されていた動物の臓器からホルモンを抽出して薬に使えるのでは?と発展してきた歴史があります。今で言うベンチャーだったと思うんです。だから新しいことに対する許容性や異文化を取り入れる土壌はあるのかもしれません。元々、女性の健康や働きやすさに関する非営利やCSRの活動を通じて、自分たちの製品とは関係なくサポートをしてきている、というのもあると思います。

色んな施策を試すけど、私たちにコントロールできるのはプロセスだけじゃないですか。同じ状況で同じことをやっても結果が違ったりしますよね。変えられることは、結果が起こる確率だけ。この状況なら7割くらいの確率でこういう結果になる、違う状況なら3割くらい…のように。何百回も挑戦すると、この施策がどんな確率でどんな結果になるかが見えてくるようになります。

でも人生で同様のことをするには、人生は短すぎますよね。行動と結果の因果関係が明らかになるくらいの回数を、自分の経験だけで試行錯誤するのは難しい。一方で歴史はそれが何万回と繰り返されている、まさにケースの宝庫だなと思いました。こうした蓄積された財産があるならば、学んだ方が良い。

でも歴史は情報量が多すぎて何から学べば良いかわからないというのが本音のところです。COTEN RADIO では気軽に興味があるテーマを選んで聞けるじゃないですか。これを提供してもらえている自分たちは、すごく恵まれていると思うんですよ。こういうものがさまざまな分野で出てくると社会は良くなってくると思っています。社会が良くなると、長期的には企業としても嬉しい。直接的、短期的にはPL(損益計算書)に跳ね返って来ないものだとしても、それをサポートできる仕組みは社会にあった方が良いと思ってるんです。

深井:
まさに、そうやって歴史を活用して欲しいと思っています。ドンピシャすぎて言うことが見つからないくらい。今のお話を聞いてやっぱり、法人 COTEN CREW へ参加するという意思決定が通ったのはすごいことだなと思っています。僕は歴史を勉強しているので、あすか製薬さんのような長い歴史の組織を引き継いで社長・君主になっていくことがどういうことなのかは、恐らく他の人よりも構造的に理解しているつもりです。山口さんって社長になられたのが割と最近ですよね(編集注 ※山口さんは2021年6月に代表取締役社長に就任)。引き継いですぐ、こういう動きをすること自体が普通は難しいと思います。

このすごく難しいはずのことをナチュラルに社内で連携されていることや、それができる組織が作られていること、非営利領域への投資を長期的に見据えて行われている方々だからこそ、歴史の価値を感じてもらえたんだな、と強く思いました。長期的視点が大事だとはみんなわかっていても、行動に移すのは難しいことだと思うんです。

社会が良くなると自分たちも嬉しい

山口:
長期的視点を大切にしているのは、事業特性もあるかもしれませんね。新薬の研究開発に10年20年とかかりますから、製薬業界は見ている時間軸が長い人が多いと思います。

当社にはシェアが非常に高い薬がいくつかあるんですね。例えば甲状腺のホルモン異常の薬はシェアが90%以上あります。人によっては生死に関わるような疾患もあるのですが、自分が病気にかかっていることに気付かない方も多いんです。他の疾患と見分けにくいことや、そもそも検査に行くきっかけがない、症状が出ているのに我慢して病院に行かない、のように、様々な原因で病気が見逃されてしまうこともある。

薬の利益は別にして、「こんな症状が出たら受診しよう」という啓発や、検査の普及、教育が進んで病気へのリテラシーが上がるなど、社会が良くなると、それまで治療が届かなかった人も早く治療ができるようになる。そうなると本人も嬉しいし、私たちも嬉しいし、社会も嬉しい。直接的に「この薬を買ってください」という活動ではないけれど、社会が良くなることで自分たちも嬉しいという感覚は常に持っているものなんですよね。なので今回の法人 COTEN CREW になることも、時間軸は製薬よりも更に長い話かもしれないですが、そんなにギャップは感じていないです。

深井:
考えていることがまさに同じですね。そこがすごく近いからこそ今回の話が実現したんでしょうね。僕たちはまだ全然社会貢献できていなくて、御社と比べたら失礼なレベルですが。あすか製薬さんは既に専門領域を持っておられて、そこでずっと社会貢献をされている。僕たちは僕たちで歴史や人文学という特殊でお金が稼ぎづらい領域を先行して勉強する。そこでうまい具合に掛け算ができて、あすか製薬さんの事業や中長期的な社会貢献に、僕たちも間接的にお役に立てると嬉しいなと思います。取引とかではなく、互いに贈与しあっているような状態ですよね。

あとはこういった社会的構造の話から、色んな会社の方々が気付きを得てもらえたらありがたいなと。会社がしていることを客観的に捉えたり、会社が社会へ何を提供しているのかを自分の口で語れるようになる、みたいに。個々の会社が時代の流れを読みながら「こんな社会貢献をもっとやったらいいかも」と決断することに貢献できたら、めちゃくちゃ嬉しいです。

でもこういう役の立ち方はなかなか難しい。意味はあるけどふわっとしてますから。世の中の8割はこれに価値を感じていないと思います。朧げに感じていたとしても、公に発言はできない。「確かにそうかもしれないけど、ここで言うことじゃないな」「稟議通すことじゃないな」ってほとんどの組織が思っていることを、名実ともにやっている組織体制にあること、かつ歴史が長いというのはすごく特殊なことだと感じています。歴史を勉強している身としては。

山口:
周りは振り回されていると思いますけどね(笑)。支えてくれる人がいるので、実行できています。

深井:
あと製薬業界って法律がすごく関係しますよね。様々な方と話してらっしゃるでしょうし、色んなことが絡み合って、世の中の仕組み全体に関わっていますよね。他の業界と比べても、社会に包括的に関わっていく業界だなと感じています。その中でも「女性」をキーワードに包括的に社会に働きかけられているところがすごいですよね。

山口:
仰る通りで、医薬品はインフラに近いですよね。患者さんの自己負担は普通の薬だと3割。残りの7割は医療費で賄われているので、社会保障費抑制の関係で薬価の改定も毎年あります。患者さんに薬が届くまでには、医師や薬剤師などの存在があったり、いろんなステークホルダーが複雑に関わっている状態ですね。

だからこそ、繰り返しになりますが社会が良くなると一番自分たちも嬉しいというのは常々思っています。社会全体の意識が変わると、自分たちにも長期的には返ってくる。人も嬉しい、事業も嬉しい、社会も嬉しいというものは、長い目で見ると一致すべきですよね。

それぞれの分野での相互扶助

山口:
学生時代から歴史はずっと苦手だったんですが、もったいなかったなと思いますね。管理職になったときに所謂古典の本、論語とか貞観政要、自省録などを読む機会が増えたのですが、もう千年以上も前の本が今も読み継がれて通用するっていうのはすごいなと思います。社会科学や人文科学は人の感情を介すじゃないですか。人の感情にはどんな時代でも共通のものがあって、それが自然科学とは違う体系で積み重なってきたから、普遍的な教科書のような存在になっているんでしょうね。これをもっと掘り下げれば、色々とヒントになるのだろうと思いつつ、まだまだできていないです。

深井:
僕たちのようにみなさんが歴史を勉強するのは基本的に難しいと思っています。僕たちは薬の勉強をしない代わりに、その時間をずっと歴史に割いてきてますから。歴史の勉強ってとにかく時間がかかるんです。先行投資型で研究が重要な事業をされながら歴史も学ぶというのは、時間が足りないと思います。どの業界でもそうだと思いますが、自分の専門性に時間を投資するしかないですよね。その分野で社会貢献しているのであれば、なおさら。

そこがまさに助け合いだと思ってるんです。僕が御社の薬を使ったことがあるかもしれないし、妻や母が使うかもしれない。実はものすごく享受している部分があると思います。逆にみなさんが自分の専門性を極めることに日々時間を使いながら、余った時間で人文学のエッセンスみたいなものを学ぶことができて、日々の仕事に活かされていたら嬉しいです。

山口:
本当に仰る通りですね。それぞれが自分たちの分野で社会に貢献することで、お互いに助け合っている。社会貢献という視点で見ると誰もが与え、与えられていたりしますね。

歴史で考えが整理される

深井:
歴史を学ぶと、日々考えていることが整理されたりすると思うんです。人文学領域の知見に触れることで、「やっぱりこの方向でよかったんだ」とか、もやもやしていたことに対して「こういうことか」と気付くことができるとか、ふわっとした役の立ち方が僕たちにはできるかな、と。

御社の場合だと、女性のウェルビーイング全体に対しての活動に対して、社内での理解がより進んでいく、といったことに貢献できたらなと思っています。これって必ずしも女性の話をしているときにそれの理解が進むわけじゃなくて、本当に全然関係ない歴史の話をしているときとかに、理解ができたりするものだなと思っているんです。すっごく変なところで繋がる。

高杉晋作の回を聞いて恋愛について考えてた、とコメントをくれた女性がいて(一同、笑)。まったく関係ないですよね。高杉晋作の人生の中に恋愛要素ひとつもなかったんですけど、それを聞いて自分がどれだけ彼氏に依存していたのか気付いたらしくて。

歴史も人文学もこういう特性があると思ってます。何がどこに繋がるかは人によって全然違います。それは、日々その人がテーマとして考えていることが整理されるからだと思います。

山口:
確かにそうですね。COTEN RADIO はよくランニングしながら聞いていますが、自分が考えていることと繋がってきますね。なんでも繋がって聞こえてきたりする。

深井:
知識が得られることよりも、思考が整理されることが一番の効果だと思います。だからこそ、歴史を学ぶことは中長期的なものですよね。思考が整理された結果、何が起こるかは分からないから。

山口:
先日会社の研修で話したことを思い出しました。コロナがどう収束するかもわからないし、業界も日本の市場の変化も激しくて、今後どんな会社が必要になるのかも変化していく。それがどう変化するかはもう誰にもわからないけど、変化はしなければならない。じゃあどうすべきなのかというと、常に変化に対応するには会社も社員も学び続けるしかないんですよね。その学びの土台となるのは、いわゆる教養とかリベラルアーツと言われる領域なのかな、と思います。どうなるかわからない未来に対してできることは、常に考え、違うエッセンスを見て思考を整理し、変化し続けること。そのためにも土台を持っていることは重要だと思います。この土台となる教養の部分で、COTEN さんから刺激をいただけるのは私自身とても助かっています。

深井:
本当にありがたいですね。今後ともよろしくお願いいたします!


ここまでお読みいただきありがとうございました。

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