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想定内のお金の使い方だけでは、非連続な会社の成長は起きない。 | 木村 祥一郎 × 深井 龍之介

法人COTEN CREWへ参加してくださった企業の方々へのインタビュー。第三弾の対談相手は、大阪府八尾市に拠点を構える石鹸・洗剤メーカー、木村石鹸の木村祥一郎さんです。

かなり初期からCOTEN RADIOを聴いてくださり、世界史データベースについても元々「あったらいいな」と思われていた木村さん。COTENに惹かれたのはそこだけではない、と仰るその理由や、組織運営への考え方などを深井と語っていただきました。

木村さんお写真

木村 祥一郎 (キムラ ショウイチロウ)さんプロフィール:
1972年生まれ。1995年大学時代の仲間数名とIT企業を立ち上げ。以来18年間、商品開発やマーケティングなどを担当。2013年6月家業である木村石鹸工業株式会社へ。2016年9月、4代目社長に就任。
自律型組織を目指し、稟議書の廃止や「自己申告型給与制度」の導入、社員自らが組織づくりを行う「じぶんプロジェクト」等、様々な施策を通じて組織改革を行っている。
事業では、石鹸を現代的にデザインしたハウスケアブランドを展開。OEM中心の事業モデルから、自社ブランド事業への転換を図る。2020年より三重県伊賀市での新工場の稼働を開始。

どうして Google がやらないんだろう

下西(COTEN広報):
木村石鹸さんと同じく、法人 COTEN CREW になってくださった中川政七商店の中川さん、堀田カーペットの堀田さんも、「木村さんに COTEN RADIO を教えてもらった」とおっしゃっていたんです。どのように COTEN RADIO を知り、そしてなぜ周りの方にもおすすめしてくださったんですか?

木村 祥一郎さん(以下、木村):
COTEN RADIO は、かなり初期から聞いていましたね。誰かに教えてもらったわけではなく、たまたま見つけたんじゃないかなぁ。正確な時期は覚えていませんが、COTEN RADIO が「JAPAN PODCAST AWARDS 2019」で大賞を取る前から聞いていました。

深井さんとも、堀田さんと同じく、経営者が集うカンファレンスの「ICC」で直接お会いしましたね。

深井 龍之介(以下、深井):
あの時は少しお話ししただけでしたね。その後、福岡でお会いしてガッツリ話し、仲良くなった。あんな僻地まで来ていただいて(笑)。

木村:
単純に COTEN RADIO のファンでしたから(笑)。それに、COTEN の活動から参考にしていることはかなりたくさんあって。COTEN にこちらから返さなきゃいけないものがある、というぐらいの感覚だったんです。そうした思いや、COTEN RADIO はシンプルに面白い番組でしたから、自然と周りの人にもおすすめしていました。
番組自体が非常に興味深いこともそうですが、あのクオリティを提供し続ける姿勢にも驚かされて。それに、COTEN が手がけている歴史のデータベース事業については、僕も興味があったんです。

歴史の情報を集め、ファクトを抽出して、ひとつの時間軸の中で整理する。過去の文献を串刺しにして見れたり、ある情報に対して様々なジャンルの本を参照できたらとても便利だな、と感じていたんです。

「そういうものがあったらいいだろうな」とは思っていたものの、それは Google などの大企業であったり、ある種の公共事業のような形でつくられるものだと想像していました。それをいちスタートアップ企業が始めたことにもびっくりしましたね。

深井:
データベースの価値をそこまで感じてくださるのは、木村さんが前職でIT企業に関わっていたのもあるんでしょうね。

木村:
ああ、それも多少はあるかも知れないですね。もともと、僕は検索エンジンの立ち上げで起業しましたから、こうした事業の価値や苦労は共感できるところがあります。

想定内のことにお金を使っていては、想定外が起きない

下西:
世界史のデータベースについてそこまで深く理解してくださっている木村さんは、深井から構想を聞いたときに、率直にどう思われましたか?

木村:
儲からないだろうな、と思いましたね(笑)。正確に言うと、儲けようとすると、恣意的なコンテンツになってしまう気がしたんです。本当に役に立つものにするには、公共物のようなものにしていかないといけない

Wikipedia のように多くの人の力を借りないと難しい事業だと感じたので、企業としてそこにどう折り合いをつけていくのか。

ただ、マネタイズの方法は思いつかないものの、「きっとどうにかなるんだろうな」とも感じていて。僕自身がはじめて起業した時も、近しい感覚だったんです。

検索エンジンの他にECサイトも作りました。今で言う、楽天に近いサービスでした。まだ1996年頃の話でしたが、無料で利用できることもあって約2000店舗が出店してくれていて。でも、どうやって儲けたらいいのか分からなくて、3年ほどでやめてしまったんです。

今考えれば、決済のところでマネタイズできたんですよね。現在は「BASE」や「STORES」がそういったモデルでサービスを展開しているので、当時もそれを思いつけばよかった。COTEN のデータベース事業も、それが価値あるものでさえあれば、現状では想像できていない形でビジネスになる可能性は、大いにあると感じています。

深井:
僕も、木村さんの感覚にすごく近いです。現時点でマネタイズの具体的な手法が思いついていなかったとしても、歴史のデータを集積させることが全人類にとって価値があるのならば、事業として成立させる方法はいくらでも生まれると考えています。

木村さんが仰る通り、歴史のデータベースを現時点でマネタイズさせようとすると、恣意的なものになってしまうんです。ビジネスにするだけだったら、きっと今すぐにでもできるけれど、公共性が失われていく。だから、「今はあえてマネタイズを考えない」という態度を取っている、という感じです。

そこまで開発費もかからないと予想しているんです。銀行などの巨大なシステムと比べれば、開発コストはずっと低いですから。おそらく、15億円もあれば成立すると試算していて。だから、法人 COTEN CREW が1000社集まったら数年で集まる金額なんです。15億円で人類と歴史の距離が縮まるなら、本当に安い金額だと思います。

実現可能なプロダクトだと思うので、「どうして Google はやらないんだろう」と僕も思います。残念ながらやってくれる人がいないので、自分がやるしかない、という感じです(笑)。

木村:
きっと、自動化ができないからでしょうね。人の手をかける、手作業の領域がたくさんある。「ロボットやAIに動いてもらおう」というやり方とは真逆の事業ですからね。

深井:
そうですね。実際、COTEN のデータベースも人海戦術で構築しようとしていますから。

木村:
資金の集め方について、はじめは「寄付のような形があり得るのかな」と思っていたので、法人 COTEN CREW はよい取り組みですよね。企業は広告ではなく、応援という形で COTEN にお金を支払う。それを自社のブランディングとして使うのは企業側の自由だけれど、COTEN はお金をもらうことについて責任は追わない。面白いモデルですよね。

それに、月に5万円から、という価格もよくて。これが100万円だったら考えざるをえないけれど、無理なく支援できる金額ですから。

深井:
たしかに、いくつかの企業から大きなお金をいただく、という方法もあると思います。ただ、「みんなからちょっとずつもらう」という形が一番いいんじゃないかと。僕からしたら月に5万円でも大金ですが、ビジネスをしている方々の負担にならない金額にしたかったんです。

木村:
会社としてお金を使う以上は、5万円を支払う意味が求められますよね。ただ僕は、費用対効果やリターンが明確にわかるものにしかお金を使わない企業は面白くない、とも思っていて。「これぐらいのお金を使ったら、これぐらいの効果が出る」と想定できているということは、想定外のことが発生しない。それでは、非連続な会社の成長は起きないですよね。利益を上げることももちろん大切なんですが、木村石鹸では「よくわからないことにお金を使う」という姿勢も大事にしているんです。

社内での経費の使い方も、基本的に承認は不要です。ただ、どういうことにお金が使われたかは共有されている。リターンは見えてなくてもいいから、「このお金の使い方は間違っていない」と言えることが重要なんです。承認はないけれど、後ろめたさがあってはいけない。自分のお金の使い方をみんなに言える自信があれば、それで十分なんです。

なので、COTEN の活動に共感を表明して法人 COTEN CREW になってお金を支払うことにも、僕は一切後ろめたさはないんです。お金を払うことで COTEN の活動を自分ごとに捉えられるし、木村石鹸自体のブランドイメージにも貢献すると思っていますから。

売上拡大を目指して、みんな幸せになれるのか?

木村:
COTEN に惹かれる理由には、データベース事業や COTEN RADIO だけでなく、資本主義の課題を勉強し、そこに新しい切り口がないかを模索し、こうして実践しているところにもあります。この取り組み自体に、大きな価値があると感じているんです。僕らも同じように悩んでいて、そのヒントが得たい。このまま新しい商品を開発し、市場を開拓し、売上を上げることを目指すのが果たしてよいことなのか、と考えているんです。

下西:
市場を広げてより多くの売上を上げていく。企業としては当たり前の姿勢のように思えますが、そこに疑問を持たれているのはなぜでしょうか。

木村:
それで、働いている人がみんな幸せになるんだったらいいんですけどね。売上の拡大が目的で、スタッフみんなが幸せ。そういう会社ばかりだったら問題ないのだけど、そうはなっていないように見えるんです。

「成長しないと生きていけない」という考えが、強迫観念のようにありますよね。でも、成長しなくても幸福で、人生っていいものだね、と感じられるならそれでもよいと思うんです。そうした方法がないのか、模索しています。

深井:
木村石鹸を訪問した際に、歴史ある会社なのに取り組みや考え方がとても新しくて、刺激を受けました。いろいろなことを「これって当たり前なんだっけ」とゼロベースで捉え直していて。

木村:
でも、過去にはつくった職場が崩壊したこともあったんですよ。現場とマネジメント層で乖離が生まれたり、一気に人が辞めたり。みんなが不満を持っていて、お互いに悪口を言っている状態でした。

自分のしたいことを実現するためにつくった会社なのに、いわゆる「組織化」をしようとしたら、とてもしんどくなって。こんな組織にしたかったわけじゃないのに、どうしてこうなってしまったんだろうと悩みました。

その時の失敗も踏まえて、今は組織に合わせて能力のある人を集めるのではなく、事業を人に合わせる、人ありきの環境にしています。戦略がないわけではないですが、入ってきた人が能力を一番発揮できるようにチームを変えていく。上から役割を与えるのではなく、大きな枠の中に人を入れて、その中で自分が得意なことを活かそうとしたら、組織は勝手に最適化していくと思っています。

深井:
「組織は大きくしていかないといけない」という、スタートアップの呪縛みたいなものはありますよね。人数を増やした方がいい、成長スピードは早い方がいい、調達金額が大きい方がかっこいい。一通りその空気に流されてみると、本質的にはまるで意味のないしょうもないものだったと気が付く。

木村石鹸ほどダイナミックではないだろうけれど、僕たちも人の才能をどうやって見極めるのか、その人の才能をベースに人員配置をしたらどういう弊害があり、組織はそれをどう解決していくか、といったことを考え続けています。

木村:
さっきのデータベースの話に通じるけれど、きっと人の才能を十分に発揮させられる組織にさえなれたら、あとはどうにでもなるんでしょうね。
深井:
本当にそう思います。人が持っている才能が発揮されれば、それだけで企業が上場してしまうぐらいのレベルになるんでしょうね。

革命を起こさなくても、社会は変えられる

下西:
さきほど木村さんが、COTEN のマネタイズについて、「寄付のような形があり得るのかな」と仰っていたけれど、法人 COTEN CREW からの支援は寄付に近い部分もあると思う。そこの違いについて、龍之介はどう考えてる?

深井:
うん、そうだね。寄付でお金を集める道を捨てているわけではない。ただ、寄付で資金を集めようとすると、資本主義と分離してしまって、常態化した行為として捉えられない可能性が高いと思っている。

「寄付」は資本主義とは異なるスキームで、かつ既存のものとして確立されている。COTEN は、市場経済が解決できてないことを、事業で解決しようとしているチーム。そんな僕らが寄付で成り立ってしまうことは、市場経済への敗北となってしまう。それでは、世の中は何も変わらない。だから、たとえば半分は寄付だったとしても、もう半分は市場経済から調達できてしまっている、といったモデルにしたくて。

この形が成立することを証明できれば、社会に与えられるインパクトが大きいものになる。その事実を見て、次の人たちが出てくる。それによって、社会が変わっていく。社会を変えるために「革命を起こす」必要はなくて、COTEN がこの形で成立さえすれば、現状の社会では説明できないものになる。これを寄付で成り立たせてしまうと、「同じように Wikipedia もあるよね」という話で終わってしまうから。

これは難しいことではなくて、僕たちが当たり前と思っているお金の使い方が、今の社会に規定されたものでしかないと気がつくだけで、十分なんだろうね。究極で言えば、気持ちが変わるだけでみんなのイメージは変わるんだと思う。実際に、こうして法人 COTEN CREW になってくれる方々がいるわけだし。

なので、まずはそれを理解してくださるクルーの方々と、一部でも新しい経済圏をつくってしまえばいいと思っていて。ただ、旧社会的・旧資本主義的な見返りは返ってきていないから、冷静になると「どうしてお金を払ってるんだっけ?」となるんだけどね。

木村:
昨年の夏に、一緒に奈良の大仏を見に行きましたよね。聖武天皇が詔(みことのり)を出して始まった大仏建立で、当時の人口の約半分が関わった事業だった。あれだって、見返りを求めて協力しているわけじゃないですよね。

深井:
そうですね。宗教的な見返りはあったでしょうが、資本主義的な見返りでは全くない。

木村:
それと近しいんじゃないかな。自分がその事業に関わりたい、という思いや、これで国がよくなればいい、と感じている。

深井:
見返りって、本当はたくさんあるはずなんですよね。「自分がコントロールしている」と勘違いしている領域だけの見返りを追求することを、やめたらいいんじゃないか。その思いを持っている人たちと新しい経済圏を築く実験をしている、という感覚ですね。

木村:
自分が COTEN や何かに「ギブ」する時って、それに対してのリターンが欲しいわけではなくて、それで世界が良くなれば、いずれは何処かから返ってくるんじゃないか、と思っているんです。渡した相手からは直接返ってこないかも知れないけれど、それで問題ない。COTEN の活動によって変わった社会・生まれた社会が、自分たちの事業や思想をよりよいものにしてくれるんじゃないか。そんな風に思っています。

深井:
僕たちの活動をここまで深く理解し、共感していただき、本当に嬉しいです。これからもよろしくお願いします。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

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